何が必要、アメリカ特許出願?―お役所への書類って、どうしてこんなに面倒―

2021.06.02

お役所への書類って、どうして、こんなに面倒なんでしょうね。
コロナの補助金申請とかでも、本当に困りましたよね。
特許の出願書類も同じです。
実は、日本の出願に比べて、アメリカの特許出願は、少し書類が多いんですよね。
どこの国でもそうですが、特許を取得するためには、その国の特許庁へ決められた書類を提出しなければなりません。

我々は、これを書面主義と呼んでいます。
文章で細かく表現していかないと、ダメなんですよね。
そして、特許庁へ決められた書類を提出することを、出願と呼んでいます。
出願後、特許庁は、その出願を審査官に割り当て、審査官は特許要件を満たしているかを審査します。
出願に含める書類は、米国特許法111条、および規則1.51などから以下のものが必要とされています。

(1)明細書・図面

明細書というのは、発明を詳細に説明した書面からなります。
発明を詳細に説明するには、英語で記載しないといけません。
でも、先ずは日本語で書いて提出し、その後に翻訳文を提出するという方法が、日本の出願人の場合は一般的です。
技術分野や内容により異なりますが、大体は、A 4で10枚以上で、20枚前後は記載されることが多いです。
明細書とは別に、請求の範囲という書面もあって、我々は良く、クレームと言っています。
クレームと言っても、何も米国特許庁に文句をいう訳ではないのですが、そもそもクレームという英語は、主張するという意味なのですが、日本の場合は、主張する内容は文句が多いので、和製英語としてクレームという言葉ができました。
つまり、クレームというのは、特許の世界では、請求する内容という、最も重要な書類になります。
米国特許で、日本の場合と大きく違う点は、図面が重要だという点です。
日本だと、必要な場合にのみ図面は要求されて、発明の理解も明細書を中心に進みますが、米国特許の場合は、図面がとても重要なのです。
図面の提出をしないと、よく審査官から提出を要求されることがあります。

(2)発明者宣誓書

発明者の宣誓書というのは、発明者がオリジナルの発明者であることを宣誓する書面です。
昔の法律では、発明者のみが、アメリカ出願人になることができたんですね。
発明者を雇用する企業が名前で特許を取得するためには、発明者が特許出願するとともに、譲渡する書類を提出して、企業へ特許を受けるための権利を譲渡する必要があったです。
この法律は、現行法では改正されていて、企業が出願人になれるようになっています。
しかし、引き続き、発明者の宣誓書の提出は必要です。
何を宣誓するかというと、自分がオリジナルの発明者ということを、宣誓しなければならないのです。
欧米では、こういった宣誓が非常に一般的です。
裁判でも、先ずは、聖書に手を置いて宣誓しますし、重要な政府の職に就くときも、宣誓したりしますよね。
これは、法律の建付けとして、自ら選んで、意図して、行っていますというのを、明らかにする必要があるのです。
そのための書面なんですよね。

(3)委任状

結構、ここまでの説明を聞いて、皆さん、ご自分で書類を全部揃えられそうですか?
何で、お役所への書類って、こんなに面倒なんでしょうね。
コロナの補助金申請とかでも、本当に困りましたよね。
特許の出願書類も同じです。
特に、各国も同じように非常に多くの書面を要求したり、クリアしなければいけない条件を設けています。
これは、知財というのは、個人として認められる権利としては、最も強力な権利だからなんです。
だって、出願から20年もその国のどこでも独占できるアイディアを、認めてもらえる権利なんですよ。
相手が、大企業とか国関係の団体だとか関係なく、独占できちゃうんです。
そこで、弁護士さんや弁理士さんにお願いして、この手続きを代行してもらおう、というときに出さなければならないのが、この委任状です。
アメリカでは、この委任状と(2)の宣誓書が1つの書類になっていましたが、最近は企業も出願人になれることになったので、譲渡書と宣誓書が1つの書類になっています。

(4)出願データシート

この書類は、昔は要求されていなかったんですが、非常に多くの書面を要求したり、クリアしなければいけない条件が多いので、基本データは、まとめて1つの書類に記載してください、っていうことで提出することになりました。
この書類により、米国特許庁は、基本的な情報を自動的にデータベースに取り込み、手入力によるエラーを防止しています。
すごいですね、お役所書類の電子化がアメリカでは進んでいます。
でも、実際には、米国特許庁の基本情報の入力ミスがひどかったんですけれどもね。
日本は、手入力でもほとんど間違えないので、いまでもお役所書類の電子化が進んでいませんよね。
実際には、進まなくとも手入力が正確だから必要ないのです。

(5)優先権の主張・証明書

優先権ってご存じですか?
知財の世界は、早いもの勝ちの世界なんですよね。
世界で特許を取りたい人は、なるべくすぐに、世界中で申請しないといけません。
その国の他の人に、権利を取られてしまうんですね。
それだと、ハードルが高いですよね。
翻訳したり、外国の書類の準備とか、費用とか、いろんなことに時間がかかります。
それを、早い者勝ちのルールでやるって、不可能ですよね。
そこで、パリ条約っていう昔の国際会議で、始めて、優先権という考え方ができました。
パリ条約ルートでは、日本出願をしたら、その日から12ヶ月以内に外国出願をすれば、優先的に保護されます。
つまり、はじめにパリ条約に加盟している国に出願をしたタイミングで、パリ条約に加盟している外国での出願も、優先的に保護するようにしましょう、ということにしたんです。
だから、優先権っていうんですね。
これをちゃんと主張して、証明書を出さないと、優先権を認めてくれないんです。
自動的には、認めてくれないんですよね。

(6)所有権の主張

会社が出願人となった場合、所有権の書面による証拠を特許料の支払いよりも前に、庁へ提出し登録する必要があります。
この証拠は、例えば、発明者から会社への発明の譲渡を示す譲渡証や、場合によっては雇用契約書などです。
アメリカでは、この譲渡書と宣誓書が1つの書類になっていて、手続きを簡素化できます。

(7)情報開示

米国特許出願について、審査官に提供すべき所定の形式の文献情報が情報開示なんです。
この情報開示は、出願人に課された義務で、その後の権利行使に影響する非常に大事なものです。
もし、情報開示義務違反があった場合に、誠意誠実の義務 (Duty of Candor and Good faith)の違反ということで、その特許の権利行使はできなくなります。
情報開示は、IDS(Information Disclosure Statement)と我々は、呼んでいます。
かつて、日本の出願人の保有する米国特許権の1/3程度は、IDS違反で、権利行使ができないというデータもありました。
米国の法律では、出願人、発明者、代理人等の関係者が知っていたか、登録までに知得した情報を審査官に提供しなければいけないんですよね。
特に、ご自分の出願に含まれるクレームの特許性に影響を及ぼすと考えられる情報は、積極的に出さないとダメなんです。
しかし、ここ30年でさまざまな法改正や判例が出ていて、結構、こんがらがってしまいやすいテーマですよね。
別途、動画を用意していますので、気になる方は見てみてください。

(8)出願人の規模の主張

アメリカ出願している人で、あまり知られていないかもしれないのですが、米国特許庁も外国人に対して、特許庁に納付する料金を軽減する制度があります。
この中で、最近できたのがマイクロ規模の組織向けの軽減措置です。
何とマイクロ規模の組織に対しては、70%オフの料金を支払えば良いことになっています。
ですから、本来であれば、数十万円かかる費用が70%オフなるんですね。
アメリカは、日本と異なり、出願時の費用がバカ高いんですよね。
ここで、マイクロ規模の組織というのは、
「個人かあるいは従業員500人以下の法人であること」、
「過去に5件以上の米国特許出願をしていないこと」、
「所得が一定以内の範囲であること」、
「所定の団体にライセンス又はその他の所有権を譲渡、又は許諾等していないこと」
が必要となります。

でも、費用が安くなると、その後にちゃんと審査してくれなかったり、何かしらの不利な点が生じるんじゃないか、と心配になるかもしれません。
しかし、そんな必要はありません。
実は、非常に多くの米国出願が、このような軽減措置を申請して特許になっているんです。
特許になった後も、権利の内容に何も影響を与えません。
ただし、一点、注意していただきたいのが、本来は該当しないのに、嘘をついて費用を軽減した場合は、詐欺を働いたとして、せっかく取得した特許は権利行使は不能になります(37CFR1.27(f))。

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