そもそも、おかしくないか?【コロナワクチン特許適用除外】
2021.05.08
新型コロナウイルスのワクチンを、途上国が十分に確保できていない中、供給を拡大するためにワクチンの特許権を、一時的に停止すべきかどうか協議されています。
治療薬の特許権の制限は、途上国の間では、かつてから議論になっています。
過去にもあった、治療薬の特許権の制限
アフリカなどでは、1990年のエイズ危機から、治療薬の特許権の取り扱いの是正を求めていました。
エイズ治療薬については、効果が高く、副作用の少ない新薬を、安定的に、なるべくタイムラグを置かずに、途上国の人々に手の届く値段で提供する医薬品特許プールの仕組みが出来上がっています。
最近では、2010年にインドで、がん治療薬の特許権に対して、インド企業が海外の製薬会社に強制ライセンスの設定を請求できるなど、インドの特許制度の運用が国際的な話題を呼びました。
今回の新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、治療薬、診断技術およびワクチンなどの、予防技術の開発が急務となっています。
こうした中、アメリカのバイデン政権で貿易政策を担当するタイ通商代表は、5月5日に発表した声明で「パンデミックを終わらせるために特許権の停止を支持する」と述べ、これまでの方針を見直すと表明しました。
一方で、ドイツのメルケル首相は、5月5日に発表した声明で、米国が提案した新型コロナウイルスワクチンの特許適用除外に反対を唱えています。
近年、稀にみるブレークスルーが、問題を複雑に
ワクチンを十分に確保できていない、途上国の間で支持が広がっているし、過去のアフリカのエイズ治療薬や、インドのがん治療薬のように、治療薬の特許権の制限すべきではないかと思ってしまいますよね。
でも、過去のエイズ治療薬や、がん治療薬に比べて、事態は少し複雑なんですよね。
というのも、今回の型コロナウイルスのワクチンには、メッセンジャーRNAという技術が使われているんです。
皆さんも、テレビでこの「メッセンジャーRNA」っている名前を聞いたことないですか?
このメッセンジャーRNAという技術は、医薬の製造技術の中では、近年、稀にみるブレークスルーで、ワクチンを大量に生産するための画期的なアイディアなんですよね。
中国やロシアのワクチンとは、根本的に生産効率が違う
中国やロシアのワクチンは、インフルエンザなどで古くから用いられている、古典的な不活性化ワクチンを利用したワクチンなので、短時間で大量生産には向いていないのです。
別に、中国やロシアのワクチンは、効果が低いという訳ではないのですが、不活性化ワクチンを利用している限り、大量に生産するのに向いてはいないんです。
このメッセンジャーRNAに関する知的財産を、中国に供与することが、安全保障上、米国や欧州で合意できる可能性がほぼないため、話が複雑になっています。
このためドイツの政府報道官は、米国の提案はワクチン生産に「深刻な問題」を生じさせると、指摘しているんですよね。
ドイツ企業は、このメッセンジャーRNAに関する知的財産を、いくつも持っているんですね。
また製薬業界は、研究開発への投資で利益が生まれるという、インセンティブがなくなれば、将来のワクチン生産に、積極的に動かなくなる恐れがあります。
日本の特許法も、このような事態を発生させないことを目的に制定しているのです。
そもそも、おかしくないか?
このような背景ではあるのですが、今回のアメリカのコロナワクチンの特許権の放棄指示は、1990年のアフリカや2010年のインドの話とは、まったく違うと思います。
例え、いまコロナワクチンの特許権の放棄をしても、生産体制が整っていない世界の製薬会社は、結局、すぐには作れないのです。
ヨーロッパ、アメリカ、日本、韓国は、もうワクチンの生産が追い付かない状況です。
世界の製薬工場と言われている、インドは、いまは、コロナの新規感染者が世界で最も増加してしまい、生産体制を整えるどころの話ではありません。
実際のところ、インドやアフリカなどへは、アメリカからは、ほとんどワクチンが入ってきていません。
日本でも、ヨーロッパの輸出規制で、ほとんどワクチンが入ってきていませんよね。
日本は、まだインドやアフリカに比べて感染者が少ないので、まだ待てるのですが、インドでは、文字通り死活問題です。
アメリカでは、5月上旬でのワクチン接種率は51%まで、上昇しました。
これに対して、インドでは2.4%、アフリカでは1.5%です。
バイデン大統領は、国内向けには、ワクチンの接種スピードを、当初の予定を大幅にスピードアップさせ、国内支持率を上げています。
では、どうやって、そのようなワクチンの接種スピードを、実現できたのでしょうか?
National criticism を Waiveするために、ワクチン特許権をWaiveするとは!
インドやアフリカなどの批判は、アメリカのワクチン囲い込みに向かっているのです。
つまり、このような国際的な反論をかわすために、アメリカは、ワクチンの特許権を放棄する提案をしているんだと思います。
新型コロナウイルスのワクチンを、途上国が十分に確保できていない中、供給を拡大するためにワクチンの特許権を、一時的に停止すべきかどうか協議されています。
治療薬の特許権の制限は、途上国の間では、かつてから議論になっているんですよね。
アメリカは、この問題をうまく使って、ワクチンの囲い込みに対する国際的な批判を、かわそうとしています。
ただし、メッセンジャーRNAという、医薬の製造技術の中では、近年、稀にみるブレークスルーが生まれてしまったことで、ワクチンの特許権を、一時的に停止するかどうかの判断も難しくなっています。
御社の製品を、
海外の悪質なパクリから守ります。