エジソンよりも稼いだ発明家

2021.05.07

僕は、日本のお客さんよりも、アメリカのお客さんの方が多い知財コンサルなのですが、その2つの国の発明者を比較して、いつも違いに驚かされます。

日本の発明者は、特許をとることが最終目的であることが多く、アメリカの発明者は特許を使ったマネタイズが目的なのです。
この違いは、慎重な日本人とアグレッシブなアメリカ人の国民性からくる違いだと、昔は考えていました。

知財を重視するプロパテント制度の申し子

アメリカの知財政策は、1980年代のレーガン政権になってから、大きく転換し、アメリカ政策の一部として、知財を重視するプロパテント制度が始まりました。
当時、日本の製品にアメリカの市場を席巻されてしまって、アメリカが目指していた、自由な市場経済がアメリカ企業のものではなくなってしまう恐れがありました。
このような外国企業の力を削ぐために使われたのが、知的財産権の法律の拡大解釈と運用です。

その中でも、もっとも恩恵を受けた発明者は、アメリカの発明家ジェローム・レメルソン (Jerome Lemelson) だと思います。
レメルソンは、子供のころから発明が好きで、医者だったお父さんに頼まれて、医療器具の発明などをしていました。
その後、ニューヨーク大学を卒業し、第二次世界大戦にアメリカ陸軍で従事した後に、航空宇宙学と工業エンジニアリングの2つの修士過程を取得しています。
彼は、数々の基本特許を取得して、そのライセンス収入で、何兆円といわれる巨万の富を、その後に得ることになります。

レメルソンの特許戦略

レメルソンの特許戦略は、基本技術に関する古い特許出願を、何回も何回も分割していく点にあります。
どこの国でも、ある出願から、全く別の出願に分割することが可能なんですよね。
分割して、新しくできた出願を、子出願とか、元の分割前の出願を、親出願と言ったりします。

つまり、人間の出産と同じように、自分の分身を生んでいくイメージです。
そして、その子出願の発明を米国特許制度上の欠陥を利用して、長い間、秘密状態にしておくのです。
業界では、もう当たり前の技術だというタイミングを見計らって、突然、昔出願した特許が成立して、それまでに普通に利用されていた技術に対して、ライセンス料を請求するのです。
このような米国特許法の制度上の欠陥は、アメリカ政策の一部として、知財を重視するプロパテント制度の間、15年以上、放置され続けられました。

真似したい方法とは?

米国特許法の制度上の欠陥は、1995年に特許制度が改正されて、いまではレメルソンの特許戦略は、実施不可能ではないかと思う方もいるかと思います。

しかし、レメルソンの特許戦略のうち、基本技術に関する古い特許出願を、何回も何回も分割していく点は、いまでも実現することができます。
そして、これが、ライセンス料を支払わざる得ない状況に追い込むのです。
実際にレメルソンの特許戦略で、対策する側が対応に困ったのは、権利の分割です。

特に、分割していく過程で、新しい技術内容を、実際の市場動向を見て、追加していくので、侵害を逃れるのが難しい点です。
レメルソンの特許戦略では、初期の段階では、単に分割しないで、新規事項を追加した形で分割するCIP (Coutinuation In-Part)という特殊な分割手法が用いられました。
つまり、もともとの出願には、記載されていないことを、後からどんどん追加して、分割することで、新しい技術内容を取り込んでしまうんですね。

後出しじゃんけんでは?

普通の分割出願では、このようなもともとの出願には、記載されていないことを、後から追加して、分割することはできません。
ただし、アメリカは、後から追加した内容は、その分割出願の日から特許要件を判断するという、条件をクリアすれば認められるのです。
これは、先進国ではアメリカでしか認められていない、特殊な分割方法です。

つまり、後出しじゃんけんに限りなく近いやり方なんですね。
日本人の人たちは、ほとんどこのやり方を知りませんし、知っていても積極的に使いません。

彼の代表的な特許である、米国特許3,081,379を例に、この点を見ていきましょう。
最初は、2件の特許出願626,211と、477,467を、一つのCIPの分割出願として統合し、さらに実際の市場動向を見て、新規事項を追加します。
さらに、そこから254,710という出願を、実際の市場動向を見て新規事項を追加し、CIPとして分割します。

初期の段階では、必ず新規事項を入れた分割(CIP)を

このように、初期の段階で、マーケットの状況を見つつ、CIPの分割出願という、特殊な方法で、新しい技術を取り込んで行きます。
もう一つ対応に困った点は、その一連の分割出願の親出願を取り下げるのではなくて、すべて登録していく手法です。
日本の出願人の多くは、分割してしまうと、元の親出願は取り下げしてしまう場合が多いのです。

これは、登録する際に支払う登録料が、割と高価なので、その費用を削減するためです。
しかし、レメルソンの特許戦略では、そのまま残して複数の権利を、どんどん網羅的に成立させていきます。

非抵触の反論が難しいアプローチ

これは、どのように機能するかと言うと、コアの特許の周辺に、非常によく似た複数の権利が、網のようにできていくんですよね。
特許の対策をやった経験のある人であれば、わかると思うのですが、1件の権利範囲の広い特許しかない場合と、一つ一つは権利範囲は狭いが、周辺を網のように形成されている特許網では、後者の方が非抵触の反論が難しいのです。

一つの特許をやり過ごしても、すぐに他の特許もあるので、そのうちに対策できなくなります。
逆に言うと、権利範囲が広くとも、1件の特許しかない場合は、割と簡単に特許の対策は、できちゃうんですよね。

この点を、大企業でも日本の人は知らない場合が多いので、オーバーラップした権利の取り方は、ほとんどしていませんよね。

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